植物各部分はどのようにして生成されるか
(How plant parts are created)

PlantStudio の植物の生長のシミュレーションで、植物の各部分がどのように生成されるのかを見るために、ひとつの分裂組織(芽)(meristem)が植物の生涯を通してどのような運命をたどるかを見ていきましょう。この分裂組織は、この植物の最初の分裂組織(芽)すなわち植物が生長を開始する時点で唯一活動をしている分裂組織とします。その運命をたどりやすくするために、この芽を「バド(Bud)」君と呼び、また、下の図では赤で示すことにします。

最初の日。バド君はその生活を開始して、バイオマスから最初の分け前を受け取ります。この植物はまだ生殖生長モードを開始していないので、バド君は葉芽(葉を作る芽)です。バド君は、節間(茎)と葉を生成したいと思っています。この植物の葉序は互生(パラメータ分裂組織:腋生分裂組織と葉序が「互生(alternate)」)としたので、バド君は、ひとつの節間ごとに一枚の葉を作るでしょう。左図にある節間(訳注1)と2枚の葉は、種子から直接に由来するものです。この時点でバド君は、新規のバイオマスを巡って、最初の節間および子葉と競い合うことになります。
(訳注1:ここで節間(internode)と呼んでいるのは、子葉(cotylidon)から下の茎様部分を指していると思われます。この部分は胚軸(hypocotyl)と呼ばれ、厳密には節間ではありません。)
最初の節間(茎)。バド君は十分なバイオマスを蓄積したので、彼は一本の節間(茎)と一枚の葉、および腋生の分裂組織(芽)をひとつを生成します。バド君は、最初の節間(茎)の先端へと引越しします。バド君は、この節間と葉に、それらがスタートするのに必要となる十分な量のバイオマスを与える、ないし、それがかなわなくてもバド君の持てるすべての量のバイオマスを与えます。与えた量のバイオマスは、彼の総量から差し引かれます。今、彼は植物の次を担う部分たちを生成することに備えて、蓄積を開始しようとしています。もし、この植物が分枝するのであったなら、腋生の分裂組織はもうひとつの枝の芽(もう一人のバド君)になっていたことでしょう(これはまた別のお話です)。
3つめの節間。ご覧のように、バド君は植物の最頂上へと登っています。ちょうど「彼」は、3つめの節間と葉を作っているところです。図中で暗赤色で示している分裂組織は、腋生の分裂組織です。節間や葉は、自身の最大サイズを目指して、植物のバイオマスをバド君と競い合っています。これらの最大サイズは、節間の両方の最終最適バイオマス(Optimal final biomass)パラメータによって決められます。
生殖成長モードに切り替わる。バド君はこのところとても忙しくて、いくつかの節間と葉を作ってきました。しかし、「彼」の運命は変転しようとしています。それを目で見ることはできないけれど、バド君は生殖成長モードへと切り替わったのです。生殖成長のスタートの時期を決めるパラメータは、一般:開花年齢(General:Age at which flowering starts)で、この変転が起こる時期を決めます。突然に、バド君が欲する全てのことが、花房を作ること、になるのです。「彼」の手持ちのバイオマス(これは、節間や葉をさらに作るために「彼」が蓄えてきたものです)の全てが花房を作るために投入されます。「彼」に十分なバイオマスの蓄えがあったとしても、「彼」が花房を作り始めるにはもう少し時間が必要です。なぜなら、もうひとつの速度制限パラメータ(花房:分裂組織が花房に成る最短日数(Inflorescences: Minimum days for meristem to create) )があるからです。
花房。バド君の仕事は終わりです。彼は、花房を作り終えて休息したのです。いまや、花房のフローラ(Flora)ちゃん(図では明るい緑色)が2つのかわいらしい花を作る仕事をしています。「彼女」は、自身の最大サイズになろうとバイオマスを要求しますが、花芽には少ししかバイオマスを与えません。彼女は予定された通りに仕事するだけです。 彼女は、2つの花を作ること(パラメータの花房:花の数(Inflorescences: Number of flowers) )、またそれを数日のうちに作ること(パラメータの花房:全ての花が開花する日数(Inflorescences: Days for all flowers to develop) )に専念します。この図では彼女は既にひとつ目の花を作っていますね。
花。フローラちゃんは約束にたがわず2つのかわいらしい花を作ってくれました。(名前を付けることはしませんが)それらの花は、花芽からスタートし、開花めざしてバイオマスを蓄積しました。今は実をつけるためにバイオマスを蓄えています。ここでも花たちには速度制限がありますが(花:成長しきる最短日数(Flowers: Minimum days to grow) )、もうひとつの制限もあるのです。それは、花:結実しない最小日数(Flowers: Minimum days before fruit can be set)で、主に実ができないように留めておくものです。けなげな花たちは、これら2つの制限を乗り越えてはじめて、実をつけることができるのです。
ひとつ実がついた。花のひとつが実をつけました。もうひとつはその花としてまだがんばっているようです。
ふたつめの実がついた。あのかわいらしい花たちの両方ともが今や実をつけるに至り、実は大きくなりつつあります。実は、S字曲線(実:成長曲線(Fruit: Growth curve) )に従って成長し、その最大サイズになってから数日(実:最大サイズになってから熟するまでの日数(Fruit: Days to ripen once full-sized) )すると「成熟した(ripe)」色に変ることで熟します。